声の主は一人の旅人。
彼女の声と抱えたバイオリンから響くメロディーは、
ノイズに飲み込まれたキリの心を引き戻す。
「ノイズなんかに、お前の終わりを決めさせるな。お前の終わりを決められるのは、お前だけだ」
…そうだ。私はまだこの世界を見たい。
空を飛ぶ鳥のように、自由に自分の意思で。
「私は、こんなところで終わりたくない! ノイズに縛られたままの人生なんて、いやだ!!」
アヤとキリ、二つの音が重なり、さらなるメロディーを奏でる。
それは、傷ついた村人たちを癒やし、鼓舞し、ノイズを弱体化させた。
「みんな、今だ! ノイズを追い払え!!」
村人たちによる必死の攻撃で、ノイズは消滅。
しかし、事態が終息した頃には、村はそのほとんどの機能を失っていた。
「この先を進めば、町がある。そこなら、ここよりもまだ安全だろう」
旅人の言葉に、村人たちは我先にと移動を始める。
声をかける者などいない。気がつくと、村にはキリ一人だけだった。
「私は今まで、一体何を守ってきたのだろう…」
もぬけの殻となった村でキリは立ち尽くす。
「…ねぇ、旅人さん、どうしてここへ?」
「ここへ私と同じ弦を奏でるソリストがいると聞いた。けれど、人違いだったようだ」
探し人だろうか?
「この先にはどんな大きな町があるの?」
「わかるはずがない。私は東から来た」
嘘をついたってこと? 不思議そうに見つめるキリから視線をそらし、旅人は歩き始めた。
「自分の進む道は自分で決めるものだ」
「待って、旅人さん! 名前は?」
「…アヤ」
「お願い、アヤ! 私をあなたと一緒に連れて行って」
アヤはさっきも言ったはずだと言うようにため息を吐いた。
「私が見たいの。この世界には何があるのか。だから──」
キリの言葉に、アヤはかすかに微笑んだ気がした。
「好きにしろ」